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第二話:熱意よりも経験

5月 1st, 2015|Comments are off for this post


国内就職という決断

ドイツで働くと決めた私がまず最初にやったこと、それは「海外就職」関係の雑誌を片っ端から読みあさることだった。15年前は「海外就職」と題されていてもドイツの情報は一切載っていなかったり、内容のほとんどは就職案内ならぬ留学案内という雑誌も珍しくなかった。

大手本屋でそれっぽい雑誌を念入りに立ち読みして、購入するほど実用的だったのはなんと数年間でたったの2冊。これには唖然としてしまった。なんだろう?この情報の少なさは。もしかして、ドイツで働きたいなどと考える人は少数派なのだろうか。

やっと手に入れた貴重な雑誌には「ドイツ:ビールとソーセージが名高いEUの中心国。現地就職状況×、ビザの取りやすさ×」などと書いてある有様だった。

なんて身も蓋もないタイトル!あっさり出鼻をくじかれて意気消沈したものの、何とか気持ちを立て直す。いやいや、こんなことで挫けてはいけない。自分が就職する頃には景気は回復してるかもしれないし……ていうかドイツの魅力はビールとソーセージだけじゃないぞ、分かってるのかこの雑誌?

この手の雑誌には、たいてい現地で働く日本人のインタビューが掲載されていた。中でも 私にとって一番参考になったのは、ドイツ日系メディアの編集者として働くMさんの記事だった。当時はまだドイツ語もろくにできなかったが、とにかくいつか自分もこんな風に働けたらというモデルケースにそれはなった。

同時に印象に残ったのは、「うちは経験のない新卒は採用しません」という、現地のある日本人経営者のインタビューだった。なぜなら「社会人としての基本が備わっていない若者を、現地で育てている余裕はないから」とのこと。大学を出たらすぐにでもドイツで働きたいという私の無垢な熱意(別名:無謀な計画)はこのおっちゃんのコメントによって見事に粉砕され、頭を冷やして考え直すことを迫られた。

言われてみれば、確かに自分はまだ「社会人として何ができるのか」すら分からない。ドイツの事情如何の前に、本当は自分のことを知らないのだ。そんな身ひとつで海外に飛び出して、一体採用側に何を売り込もうというのだろうか。若さとやる気?ドイツへの熱い思い?いやいや、私が経営者だったら採用のツボはそこじゃない。「パン屋に感動しまして」とか言われても、何もできなきゃ困るのだ。

こうして、就職氷河期も終わろうとする2005年、ドイツを夢見ていた私はとりあえず日本で就職することにした。当時は入社したら最低3年は続けないと一人前でない、といわれていた。だからその3年後の2008年に渡独することを決めた。その時から、25歳でドイツで働くことが自分の人生の目標になった。

社会人経験は財産

前回コラムで書いたとおり、私がドイツを目指したのは「世界で自分の力を試したいから」でも「国際性を身につけたいから」でもなく「ただそこに自分の望む暮らしがあったから」でした。まあひょっとしたら、それを教えてくれたのがたまたまドイツのパン屋だっただけのことで、北海道の牧場にも同じ暮らしはあったのかもしれませんが、とにかく単純な私は理想の暮らしを求めて、あっさりドイツを目指してしまったわけです。

この考え方にはひとつ盲点があり、たとえ海外で望んだ暮らしを実現したとしても、その時自分がどんな仕事をしているかは皆目検討がつかない、ということでした。そんな未熟な私にとって、手始めに日本で就職し自分が働く姿を体現しておくことは、ある意味必要な回り道だったといえるでしょう。

当時雑誌に載っていた経営者の「新卒お断り」発言について、今となっては、実際多くの在独日系企業で耳にする言葉だと分かります。全く不可能というわけではありませんが、ほとんどの会社は最小限の人員で業務を回しているため、一から仕事を教えている余力がないのです。せっかく語学力やポテンシャルを買われて就職しても、本人が「仕事を教えてくれない」「何をやったらいいのか分からない」と嘆いて、短い期間で職を離れてしまうケースも存在します。

もしも同じ分野である程度の社会人経験があれば、そうした環境でも、すぐれた仕事のやり方を周りから盗んだり、過去の経験をもとに自分なりの方法を模索していくことができるでしょう。即戦力とは結局、そうして自ら学習、反省、試行錯誤できる人材を指すのではないかと思います。そのためには、ある程度自分の中に引き出しとなる経験を蓄積しておくことが必要です。日本での社会人経験は、そうした意味で、 あなたの海外での市場価値をきっと高めてくれるでしょう。

 


Profil

柏葉 綾子(かしわば あやこ)
1982年東京生まれ。大学卒業後、都内の印刷会社に営業として3年間勤務。2008年ドイツへ渡り、現地日系企業で広告営業に4年間従事。一度は将来の方向性を見失って退職するものの、それを機にキャリアカウンセリングを学び、人材会社に転職。現在はドイツで人材コンサルタントとして働く傍ら、個人カウンセラーとしてドイツで働きたい若者向けの情報提供を行っている。
Blog:「ドイツで働きたいあなたへ」http://workingermany5.blog.fc2.com

Facebook:「ドイツ街角便り」https://www.facebook.com/doitsutown

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