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第五話:チャンスは体当たりでつかめ!

5月 3rd, 2016|Comments are off for this post


ピンチとチャンスはワンセット

ドイツ生活ではもちろんトラブルもあった。2件目のステイ先では宿泊規則(いわゆるHausordnung)でシャワーは10分まで、と決められていた。

ドイツは水道代が高く、ホストファミリーを副業的に営んでいる家庭では、非常にビジネスライクな対応をされることがある。ある日のこと、私がバスルームから出ると、ホストマザーが恐ろしい顔で仁王立ちしていた。「あなた、14分もシャワーを浴びていたわよ!シャワーは10分だって言ったじゃない!!」

たまたま虫の居所が悪かったのだろう、それはひっくり返るほどの剣幕だった。

「シャワーは10分しか使っていない、バスルームを出るのが遅れただけ」と説明したかったがままならない。向こうは怒りで我を忘れている上に、当時の自分のドイツ語は何を説明するにもあまりに未熟すぎた。

翌日、学校でことの顛末を話したら「なんだってアヤコ、そりゃ14分(フィアツェーン)じゃなくて40分(フィアツィッヒ)の間違いじゃないのか?」なんて先生に驚かれる始末。ドイツ語初心者にありがちな数字の聴き間違いだ。

「シャワーは10分と言われて、40分も浴びるほど肝すわっちゃいない!」と反論して大爆笑になったが、いずれにせよその家に居づらくなった私は、程なくして引越しを検討し始める。

できれば一度、ドイツ人学生とルームシェアをしてみたかった。当たり前だがドイツ語学校に生粋のドイツ人学生は少なく、いずれ仕事でドイツ語を使うのであれば、生のドイツ語に触れる機会をもっと増やしたいと感じていたからだ。

しかし、当時住んでいたフライブルクは学生街で、賃貸住居の下見は学生を中心にすごい競争率だと聞いていた。こんな片言のドイツ語で、本当に引越し先なんて見つかるのだろうか。心当たりもなく、とりあえず地元の大学掲示板にふら〜っと立ち寄ってみると、丁度若いドイツ人女性が貼り紙をして立ち去って行くところだった。興味を持って読んでみると、それはWG*入居人募集の貼り紙だった……。

はっと気がついた時には、全力でその人を呼び止めていた。今貼ったということは、探し始めたばかりということだ。

「あの、私、家を探しているのです!この部屋、見せてもらえませんか?」

「ああ……いいけど、いつ見に来ますか?」

「いつでも、なるべく早く!!」

こんなやりとりをして、その日の夕方には部屋を見せてもらえることになった。とっさのことで、自分のドイツ語が片言だとか、そういう心配はすっかり忘れていた。

行ってみると、私がそのWGに初めて下見に訪れた人間で、その日はたまたま入居者全員が揃っており、メンバーは全員年の近い女子大生で、満場一致でその場で入居を許可してもらえた。渡りに船とは、このことである。

私が家を探すと聞いて心配してくれた友人たちは、翌日「見つけたよ」と聞いて、開いた口がふさがらない様子だった。

*ルームシェアのことをドイツ語でWohngemeinschaftと言い、略してWG(ヴェーゲー)と呼ばれる。ドイツでは、キッチン・バスルーム・トイレ共用で、個別の寝室があるタイプが多い。

受けなきゃチャンスはつかめない

もう一つ、印象的な出来事があった。ドイツ人の友人を増やして語学を上達させるために、何かサークルに入ろうと思いついた私は、ある時フライブルク大学の学生オーケストラの門を叩いた。

言葉が分からなくても見よう見まねでできそうなもの……といって思いついたのが、自分が大学時代にやっていたオーケストラだった。次のコンサートの演目も、よく見れば昔弾いたことのある曲ばかり。

これならきっといけるに違いない!なんて呑気に構えていた私は、入団オーディションの知らせをもらって一気に視界が暗転した。自分のドイツ語が間違っていなければ「各自持ち時間10分で演奏し、5分でテクニックを、5分であなたの音楽性を見せてください」なんてことがそこには書かれていたのだ。

すっかり恐れをなしてオーディションをすっぽかそうとした私は、その当時同じステイ先に滞在していた日本人ルームメイトに喝を飛ばされた。

「絶対に行くべきだよ!万が一にも受かるかもしれないんだよ?でも、受けなきゃチャンスもつかめないんだよ!?」

彼女は日本の音大を出た後、フライブルク音大へ声楽を学びにきていた人間だった。正論すぎてぐうの音もでなかったし、逃げ出そうとしていた自分が甚だ情けなくなって結局オーディションを受けに行った。そしたら結果は合格で、半年後にはフライブルクのコンサートホールに立っていた。

人生って本当にわからないと思ったし、自分を変えてくれるのはいつも人との出会いだった。

流れが来たら迷わず乗ろう

2008年にドイツに渡った私は、その年合計で4回の引越しをしたのですが、いずれも探し始めて3日以内に入居先が決まるという不思議な経験をしました。

通りがかりに見つけた貼り紙がきっかけで入居先を見つけ、とても親切な同居人や大家さんに出会い、引っ越し先にはあらゆる素敵な家具が揃っていて、家賃は引越し前よりお手頃で、電話やインターネットもほぼ無料で使わせてもらえる、という幸運な出来事が続いたのです。時には室内バルコニーのある部屋に住んでいた時期もあり「本当に、こんな素敵な所に住んでいいのかな」という思いを抱いた程。

予期せぬ幸運は人を謙虚にするもので、以来私は、何事においても流れを尊重するようになりました。こんなに上手くいく時があるんだから、押しても引いてもさっぱりな時だってあるよね、と思ったわけです。自分の力ではどうしようもないことを、何か大きな流れが解決してくれる。振り返れば、家探しは初めてそれを体感した時だったと思います。

流れがきている時にチャンスをつかむ決め手は間違いなく行動力です。WGの下見に行った私は、家を見つけることに夢中で言葉の問題をすっかり失念していましたが、準備が完璧に整う日を待っていては、行動できる日は永遠に訪れません。

またオーディションの一件のように、チャンスが来ていることを周りの人から教えてもらうこともありました。あの日最終的に私に突きつけられたのは、行かなきゃチャンスは掴めないと知っていて「それでもあなたは行かないの?」という自分から自分への疑問でした。

決断に迷いがある時、人は大概自分自身への言い訳をしているものです。ですから迷った時は「どちらを選んだら正解か」ではなく「その決断は本物?」という問いかけをするようになりました。自分にとって本物であれば、その決断が正解になる日はきっと訪れると思うからです。

 


Profil柏葉 綾子(かしわば あやこ)
1982年東京生まれ。ドイツで働くことを夢見て2008年に渡独。現地日系企業に広告営業として従事した後、将来の方向性を見失い自ら退職。それを機にキャリアカウンセリングを学び、ドイツ人材会社の営業として再就職する。2015年に独立、現在はフリーのキャリアカウンセラー&人材コンサルタントとして、幸せな働き方探しをサポートするカウンセリング・キャリア講座を行っている。
HP:Happy Career Europe
Blog:「ドイツで働きたいあなたへ」

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