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伊藤路子さん

1月 25th, 2012|件のコメント


国際機関職員。オーストラリアの大学院を卒業した後に日本に帰国、財団法人FASIDに就職する。その後、鹿児島のNGOに転職し、駐在員としてミャンマーで7年間の生活を送る。現在は国際機関IOMに勤務し、ミャンマー人の夫と家族5人でタイに暮らしている。

「梯子を外して、何もないところから自分を試したい」

濱田:もともとオーストラリアの大学・大学院でアボリジニの研究に携わっていらっしゃった伊藤さんが、国際協力のお仕事をはじめたきかっけは何ですか?

伊藤:大学院生の時に、卒業したら日本で働こうと思って仕事を探していたんです。でも当時は就職が厳しい時期で、就職先が全然ありませんでした。そしたらある時 「青年海外協力隊なんて良いんじゃない?」 と知人に勧められて。国際協力の仕事を目指していたわけではないけれど、試しに応募してみたんですね。結局青年海外協力隊にはならなかったけど、選考の時に出来たご縁で東京にある国際協力関連の財団法人に勤めることになりました。それが国際協力の仕事をするようになったきっかけです。

濱田:はじめから国際協力の仕事を目指していたわけではなかったんですね。でもどうしてオーストラリアではなくて、あえて日本で働きたいと思ったんですか?

伊藤:オーストラリアの大学院に通っている頃、日本に一時帰国したことがあったんですね。高校卒業以来5年ぶりに家族と生活したんですが、その時に家族や社会との価値観の違いをすごく感じたんです。それで私自身の価値観や考え方がオーストラリアでの生活を通して随分変わっていたことに気が付いて。そうやって感覚の違いを感じながら生活をしているうちに、今度は日本に対する興味が芽生えてきて、日本人として社会の内側から日本を眺めてみたくなったんです。それがきっかけで日本に就職しようと思いました。

濱田:実際に日本で働いてみてどうでしたか?

伊藤:そうですね、自分にはあまり合いませんでした(笑)。初めての就職先として政府系の財団法人で働き始めたのですが、組織があまりにも安定していて、このままここで数年働いてしまうと、ほかのところに移るのが怖くなるかも、という危機感を感じました。なんというか、私は若い時から自分で人生の梯子を外すのが好きなんです(笑)。梯子って、昇っていくと落ちるのが怖くなるじゃない?だから私は敢えて自分で梯子を外して、また何もないところで自分を試したかったんです。特に若いうちは梯子を外すのに絶好の時期。まだ失敗が許される間に、裸一貫で崖っぷちで生きてみようと思い、 その団体は1年くらいで辞めました。

濱田:日本は安定志向が強いので「自分で梯子を外す」という考え方はすごく新鮮です。

伊藤:それは結局、「何を幸せの軸とするか」ということなんじゃないかな。肩書きとか地位から解放されることで、見えてくる幸せの軸はあるはず。今は、家族や自分の生き方をどれだけ守れているかということに幸せを見出したいと思っています。

「頭で色々考えるのではなくて、はらわたの直感を信じる」

濱田:伊藤さんがミャンマーでお仕事をされるようになったきっかけを教えてください。

伊藤:鹿児島のNGOに転職したんですが、鹿児島に移って2ヵ月後にはミャンマーに向けて出発していました(笑)。鹿児島でずっと仕事をしていくつもりで転職したのに、突然ミャンマーに行ってくれと言われてしまって。

濱田:移住してたった2ヶ月で(笑)。ミャンマーに行くことに迷いは無かったのですか?

伊藤:そうですね。というのも私、あんまり頭で考えないんですよ。英語で”gut feeling”という言い回しがあるんですけど、直訳すると「はらわたの感覚」、つまり第六感みたいな感じかな。生物の源って脳みそじゃなくてはらわたじゃないですか。だから私、何か決断する時は頭で色々考えるんじゃなくて、はらわたの直感を信じるんです。ミャンマーに行くというのも「はらわた的」な直感で決めました。

「常にプロフェッショナルの気持ちで取り組むことが大切」

濱田:ミャンマーにはどのくらいいらっしゃったんですか?

伊藤:ミャンマーには結局7年間いました。最終的には政府が国際機関で働く日本人を増やすために設けている、JPOというプログラムの試験に受かってミャンマーを離れたんです。

濱田:「国際機関」というと大きくてお堅いイメージがあるのですが、「裸一貫で常に崖っぷちで生きていきたい」という伊藤さんが敢えて国際機関でキャリアを積もうと思ったのには、何か特別な目的があったんですか?

伊藤:そうですね。大きな組織で活動するよりも、裸一貫でやっていきたいNGOタイプの人間であることは変わらないです。でも実際に現場で働いてみて思うのですが、自分がいくら裸一貫でやっていきたいと思っても、ある程度の経験とキャリアがないと周りに受け入れてもらえないんですね。特にNGOで働いていると、怪しい人と思われる場合もある(笑)。その中できちんと信用を得て活動するためにも、「お堅いところでお堅い仕事をやっていました」と言えるキャリアを積むことって、実はすごく大切だと感じました。ゆくゆくは夫の生まれたミャンマーに根を張って、ストリートチルドレンの教育支援とか地道な活動をしていきたいと思っているんですが、今はそれを実現する時のために国際機関で働いて、経験やキャリアの多様化を図っているところです。

濱田:国際機関で働くというのはあくまで通過点であって、最終目標ではないんですね。

伊藤:私が国際機関で働いているのは、将来自分が本当にやりたいことを実現するため。国際機関で働くというのは手段であって、目的ではないんです。国際機関で働くことを目指す人の中には、「国際機関で働く」こと自体を目的にしている人もいます。その場合でも、「国際機関に入ることで、自分が社会の問題解決にどう貢献できるのか 」と常に問いかけ続けることが必要だと思います。

濱田:最後に、国際協力の分野で活動したいと考えている人たちに向けてメッセージをお願いします。

伊藤:この仕事は、人様のために働いて感謝され、なお且つお給料をもらえるという有難い仕事。だからこそ、まずは、自分がしていることにおごりがあってはいけないと思います。 主役はあくまで現地の人々。国際協力の仕事をする人は、現地の人たちが主体性を持って自分たちの未来を切り開いていくプロセスを裏から支援する裏方なんですね。人の生活に直接関わる仕事だからこそ、常にプロフェッショナルに謙虚な気持ちで取り組むことが大切なんじゃないかな。