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濱口陽子さん

濱田 真里
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神戸大学経営学部卒業後、何も決めずに渡タイし、18年目。バンコクで日本語教師、現地の経済新聞社に雑誌記者として1年ほど勤務する。その後バンコクの日本人向けフリーペーパー「ばんこくガイド」や、パンフレットや印刷物などの制作会社を起業。

「人の意見を聞かないというのも大事」

濱田:濱口さんがタイに興味を持ったきっかけは何ですか?

濱口:それはムエタイです。というのも私、中学生の時はずっとプロレスラーになりたかったんですよ。テレビで見たジャガー横田に衝撃を受けて、当時はプロレスラーになれないくらいなら死のう、と思うほど本気で目指していました。結局は中3の時に体力の限界を感じて諦めたけど、せめて専門誌の記者になって一生プロレスを追いかけたいと思うくらい格闘技は好きでしたね。ムエタイに出会ったのも学生時代に通っていたジムで、初めて見た時に何だこの人間離れしたしなやかな肉体は!これは現地で本物を見たい!と思ったんです。それで直ぐに飛行機のチケットを取ってタイに行きました。何も調べず、一人でしたけどね。

濱田:何も調べず一人で行くなんて、当時から海外には結構行かれていたんですか?

濱口:短期留学で中国には行ったけど、一人旅はそれが初めて。だから最初の頃は売春宿街のホテルに泊まったり、迷子になったり、早く帰りたいと思うようなこともありました。でも、タイ人の優しさや面白さに触れるうちにタイが好きになって、帰る頃にはこんなに面白い国に関わらずに生きていくのは嫌やな、と思うようになっていて。だから就職活動の時も、ほとんどタイに行くことしか考えていませんでしたよ。

濱田:でも、旅行で行くのと現地で生活するのは大分違うと思うのですが、不安はありませんでしたか?

濱口:何でしょうね、自分なら出来るという根拠のない自信があったんですよ。この国で一旗挙げてやろうと思っていましたから。でもそれは無知だったから出来たのかもしれない。

濱田:無知だからこそ出来ることってありますよね。

濱口:そうそう、最近の人たちは色々下調べしすぎ。今はインターネットで体験談でも何でも簡単に見れるけど、そんなの見たら知らないうちに限界を見てしまうでしょ。それでみんな安全な方を選んで、チャンスを逃してしまうんですよ。優秀な学生はそんなことしなくても大丈夫。だから人の意見を聞かないというのも大事。目と耳を塞いで自分で考えた方が後で後悔しないしね。

濱田:でも、それって怖くないですか?

濱口:確かにそれで失敗したり損をしたりすることもあると思う。でも、それでいいんですよ。人って予想外のことが起こったり、期待を裏切られた時の方がパワーが出るものだし、そうやって色々経験した方が、何もない人生より面白いと思いますよ。

「欲しいものは、はったりをかましてでも手に入れなきゃいけない」

濱田:タイに来た当初はどんなことをされていたんですか?

濱口:最初は日本語を教えていました。元々教えるのが好きだったから遣り甲斐はありましたけど、それだととてもじゃないけど生活出来ないんですよ。そしたらちょうど、英語の新聞を日本語に翻訳する新聞記者の募集があって。元々記者志望だったから、これや!と思って応募しました。その時は、これを逃したらタイで生きていく術はない!と思っていたから必死でしたね。私を採らなきゃ損ですよ、というくらいの強気でなんとか滑り込みました。

濱田:新聞記者のお仕事をされていた濱口さんが、現在のフリーペーパーの会社を立ち上げられた経緯を教えてください。

濱口:そもそもは当時のパートナーだった今の夫と、お金を貯めて自分たちで会社を始めようと思ったのがきっかけ。何をしようか考えていたら、ちょうどその頃シンガポールに行った彼が、現地のフリーペーパーを持って帰ってきて。これならそんなに元手がなくても作れるし、私が書いて彼が広告を集めれば出来ると思って、フリーペーパーを作ることにしたんです。だから、元からフリーペーパーを作ろうと思っていたというよりは、お金のない二人がお互いの出せる限りの力を合わせて出来るのがそれだったという感じ。

濱田:実際に起業されてどうでしたか?

濱口:それはもう大変でした。最初の1年半はほとんど収入がなかったし、配達も船やバスでやっていましたからね。その時はいつか成功するとか、どこかに出口があるなんて正直信じられなかった。でも、努力さえ続けていれば上手く行くこともあるんですよね。ある時、会社のパンフレットを印刷出来る会社を紹介してくれないかという話があって。その時はこれを逃したら先がないと思っていたから、うちで出来ます!とはったりを言って仕事を取ったんですよ。それをなんとか上手くやって、やっとお金を手にすることが出来て。そこから少しずつ良くなっていったんですよね。

濱田:そうやってチャンスを活かすって、大事ですよね。

濱口:ぼやっとしていたら何も来ないと言うけど、チャンスは絶対に来るんですよ。大切なのはそれに手を伸ばして掴むこと。欲しいものは、はったりをかましてでも手に入れなきゃいけないんですよ。今の若い人にもそれは必要だと思うんです。私みたいにとりあえず「出来ます、任せてください!」と言って、後から必死の努力で追いつくくらいの勢いも大事。

「自分の正義を貫ける場所がタイだった」

濱田:色々と苦労されたようですが、日本に帰ろうと思ったことはないんですか?

濱口:帰るも何も戻れなかったですもん。タイで一旗挙げてくると皆に豪語して、日本に戻るという選択肢を焼いてきましたから。だから、当時はとにかく結果を残すことに必死だった。今となってはタイでの生活が楽しくて好きだし、もう感覚が日本仕様じゃなくなっているから日本に帰るなら他の国に行った方がいいかもしれない(笑)。

濱田:ここでの生活が楽しいと感じるのはどうしてですか?

濱口:毎日変化があるからですかね。電気、水が止まった、スリに遭った…ここで生活していると色んな支障があるし、日本みたいに物事がすいすい進んでいかない。でも、色んな変化がある分、退屈しないんですよ。確かに日本は便利。でも、それを追求しすぎて、何かに追われながら同じ毎日を繰り返すのって退屈でしょ。日本人はせっせと毎日忙しそうで、まさか退屈しているようには見えないけど、逆に「毎日同じことして退屈やわ…」と思っている人が多いんじゃないかと思いますね。

濱田:確かにタイで生活をしていると、想定外の色んなことが起こりそうですもんね(笑)。何でもあり、というか。

濱口:私は楽するのが好きというわけじゃないんだけど、自由じゃなきゃ生きていけないんですよ。その自由が守られるから、ここでの生活が好きなんですよね。

濱田:その「自由」とはどんな自由ですか?

濱口:それは自分の正義感を貫ける自由。日本ではこうしなきゃいけないというのが強すぎて、自分が正しいと思ったことを貫けないことがあるでしょ。私は元々正直であることに一番の価値を見出す人間だから、自分に嘘をついてまで何かを維持しようとする人間にはなりたくないんですよ。そういう意味で、私にとってタイは自由ですね。

濱田:最後に若者に向けたメッセージをお願いします。

濱口:皆自分に自信を持って。体験談や失敗談を参考にするのもいいけど、もしかしたら怖くなって、あなたにぴったりの運命に飛び込む機会を失うことになるかもしれないということを覚えておいて欲しい。皆は優秀だし、色んな経験をして、色んな人生の局面に勝利してきたんだからそれに自信を持って。インターネットでキレイ事を言っている人たちの意見に惑わされず、一旦目をつぶって、耳を塞いで、腕を組んで、自分のことをしっかり考えて見えた道にしっかり進んで欲しいと思います。


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