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小出陽子さん

濱田 真里
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一級建築士。大学院を卒業後、民間設計事務所や宮内庁に勤務し、社寺の建築や宮内庁関連施設の改修など様々なプロジェクトに携わる。その後、仕事の依頼を受けたことがきっかけで1999年にカンボジアへ渡り、その後カンボジア人の男性と結婚する。現在は建築士として働く傍ら、遺跡の修復を行うNGOやカフェの経営など、幅広く活動している。

「日本では出来ないことを実現できることが楽しい」

濱田:小出さんは現在カンボジアでどんなお仕事をされていらっしゃるんですか?

小出:建築の仕事が本業ですが、遺跡修復に関わっている作業員たちの村を支援するNGOの運営やカフェレストランの経営もしています。

濱田:色々な分野のお仕事を手がけていらっしゃるんですね!そもそもどういう経緯でカンボジアにいらしたんですか?

小出:カンボジアの遺跡修復を行っている団体のオフィスと展示施設の建設の依頼を頂いたのがきっかけです。終わったら日本に帰る予定だったのですが、その団体で一緒に仕事をしていたカンボジア人と結婚したので、それ以来カンボジアに住んでいます。

濱田:だから建築のお仕事をされながら、遺跡修復関連のNGOでも活動されているんですね。当初は仕事が終わったら日本に帰るつもりだったということですが、カンボジアに住むということに不安や抵抗はなかったのですか?

小出:そうですね。学生の頃から研究調査で何度もエジプトへ行ったり、旅行でインドへ行ったりしていたので、カンボジアだからといって不安はありませんでした。カンボジアはエジプトやインドに比べたら日本に近いですし、どちらかというと「沖縄のちょっと先」という感じで身近なイメージがありました。実際に住んでみても日本より住みやすいと思う部分が多いし、違和感はほとんどないですね。

濱田:ところで、カフェの経営もされているというお話でしたが、カフェを始められたきっかけは何ですか?

小出:それが本当に偶然なんですよ。ちょうどオフィス建設の仕事が終わった頃に、カンボジアでシェムリアップ市民のための公園を設計してほしいという依頼があって、「その公園の敷地の一画に、オープンなカフェスペースも作って欲しい」と言われたんですね。それで私は誰がどう使うのかも分からずに、予算もほとんどないままそのスペースをつくったんですけど、完成後に依頼主の方が「ここを使ってみませんか?」と仰ってくださって。それがカフェをオープンしようと思ったきっかけです。

濱田:はじめからご自身で「カフェをやろう!」と思われていたわけではなかったんですね!でも、それまでカフェの経営を経験されていたというわけではないですよね…?

小出:経験は全くなかったですね(笑)。カフェの経営なんて初めてなのに、メニュー選びからスタッフの教育まで全て自分でやったんですよ。だからカフェをオープンすると決めてから実際にオープンするまで2年くらいかかってしまいました。本業の仕事の合間にやっていたしね(笑)。

濱田:経験がない状態で、しかも自分で計画していたわけでもないのに「やろう!」と決心されるなんて、すごいですね!

小出:確かに最初はそのつもりじゃなかったけど、長年建築の仕事に携わるなかで「いつかは自分で作ったものを運営してみたい」という思いは持っていました。建築家は建物を設計する際に、「将来どのように使われるのか」と様々な場面を想定しながら設計するんですね。でも、建物が出来上がったら、運営にあまり口を出すことは出来ません。私はそれが少し残念だな、何かずっと関わっていけるものがあったらいいな、と思っていたんです。だから自分で計画していたことではないけれど、カフェを実際に運営していくことで結果的にはそういった自分の願いが実現しましたね。あと、一度始めてみたら、スタッフとその家族の生活をも安定的に維持していかなければならないという経営者の責任も身にしみて感じました。

「努力をすれば、運は付いてくる」

                                             
濱田:本業は建築設計ということですが、大学を卒業されてから一貫して建築のお仕事をされているんですか?

小出:そうですね。大学、大学院で建築を学んで、卒業後は建築設計事務所に勤めたりしながら経験を積みました。

濱田:大学で建築を学ぼうと思ったということは、高校生の頃から建築家を目指されていたということですよね?その頃から自分のやりたいことを見つけていたなんてすごいことだと思います。

小出:でも実際は建築家になりたいと思っていたというより、理系の教科の方が得意だったから消去法で決めた感じ(笑)。あとは、建築って衣食住って言われるように、人間が生きる基本の一つじゃない?だから建築を学ぶっていうことは、人間の生き様を考えるということにつながるんだろうと思って、そういう面に興味をもって学ぼうと思ったこともありますね。

濱田:ちなみに小出さんはどんな学生時代を過ごされたんですか?

小出:私、大学時代は山岳サイクリング部というのに入っていたんです。とにかく色んなところに行きたくて、自転車で日本中を走り回っていました。理系だったので出席が厳しい教科が多くて、しかも課題も多くて大変だったけれど、休みを見つけては飛び回っていました。長期休みはもちろん、週末の土日もどこかに出かけていたので、早稲田大学に6年間通いながら、早稲田祭や早慶戦に一度も参加したことがないんですよ(笑)。大学1年の時は年間60日間ほど、大学2年の時は100日間以上、日本中を走り回っていましたね。コースとしては道なき道を行くというか、一歩はずれた山道とか峠道を目指すんですよ(笑)。よりマイナーな道を選ぶんです。綺麗に舗装されて車がびゅんびゅん通っている国道とかは面白くないじゃないですか。自転車を担いで山道を登ることも多かったけれど、苦労した分、目的地に着いた時の達成感とか頂上で飲むビールは最高でしたね。色んな景色を見て、色んな人に出会って、その土地土地の歴史を肌で感じるいうのがすごく楽しかったです。それだけでなく、自然の中にいると、自分という人間の小ささ、その時々に悩んでいることのつまらなさなどを実感することもありました。

濱田:その時の経験から、何か得たことや学んだことはありますか?

小出:それはやっぱり「瞬間の判断力」だと思います。自転車で旅に出かけると、寝る場所や走る道を天候や体力などその時々で判断しなければならない場面がすごく多いんですね。だから周りの状況や先のことを考えながら、瞬時に最善の判断を下す能力というのはすごく養われたと思います。建築の現場でも瞬間の判断力は大切なので、最善の判断を下しつつ、みんなの合意を得ながら進めるようにしています。勘みたいなものでもあるかな。そういうのは場数を踏めばわかってくるようになると思います。

濱田:最後になりますが、日本の学生に向けてメッセージをお願いします。

小出:建築の仕事や自転車の経験を通じて思うことですが、瞬間の判断力や勘というものは、色んな経験を積んで場数をこなせば身につくと思います。何の経験を積むかは、人それぞれでいい。だからこそぜひ、自分がやりたいと思ったことは計画を立てて思いっきりやってみてください。何か一つ続けたものがあると、その経験って絶対に後から生きてきますから。本当にやりたいことに向って努力をしていれば、運というのは向いてくるものです。私もまさかカフェを経営できるなんて思ってもみなかったですし。だからみなさんも、自分のやりたいことに向かって頑張ってくださいね。


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