濱田:海外にいつから興味を持たれたのでしょうか。
鈴木:中学生の時から、色んな場所に行ける旅行会社の添乗員に憧れていて、海外に行きたいと思っていました。観光専門学校の観光科に進学したのですが、卒業後は就職超氷河期。資料請求を約100社して15社受けたのですが全く受からず、やっと受かった旅行会社では添乗員ではなく経理に配属されました。
旅行業には国家資格が必要です。だからまずはそれを取得しようと思い、3ヶ月間集中的に勉強して合格。でも、結局経理から異動させてもらえなかったので1年後に退職しました。
次の会社は、カウンターと添乗業務として就職したのですが、10歳上の先輩と全く反りが合わなくて。3ヶ月くらいで辞めたくなったのですが、それだと履歴書に書けませんし、自分でやると決めた仕事なので、3年間は続けると決意。そしていざ辞めるとなった時に、普通に「辞めます」と言いたくなかったので、「海外に行くので辞めます」にしようと思い、色々な方法を探しました。
そこで見つけたのが、オーストラリアでの日本語教師アシスタントボランティア。9ヶ月間のプログラムで、ホームステイをしたことで英語漬けの生活を送ることができました。当時24歳でしたね。
濱田:オーストラリアから帰国後は、日本で働かれたのでしょうか。
鈴木:帰国後は海外で添乗員ができる会社に入りたいと思い、地元の静岡だとこれまでと環境が変わらないので、東京で仕事を探しました。旅行会社に採用され、最初の2年は国内で修学旅行の添乗員をし、その後は試験を受けて夢だった海外添乗員に。幅広く何でもできるようになりたかったので、国内外問わずに色々な場所に添乗させてもらいました。海外に行って、日本と異なる文化や暮らしを見るうちに、やっぱり海外に住んでみたいという気持ちが強くなっていきましたね。
30歳頃になると、今後のキャリアについて考えるようになりました。そして、どうしても海外就職を実現させたいと思い、情報収集を開始。探し出すと様々な選択肢が出てきて、色々検討した結果、カンボジアにある旅行会社のツアーガイドの仕事をすることにしました。メキシコやパラオといった他の国での仕事も見つけたのですが、行ったことのある国が良かったんです。
カンボジアは旅行経験があり、とても良い印象がありました。思っていたよりも都会で、これから観光産業が伸びていく兆しが見えていた。こういう発展を感じられる場所で働くことができたら楽しいだろうなと思って。たまたま募集を見つけた時は、「ここだ!」と思いました。そして、6年間の添乗員の仕事を辞め、2007年の12月からカンボジアでの仕事がスタートしたのです。
濱田:カンボジアでのガイドはどんな仕事内容だったのでしょうか。
鈴木:1年間の契約で遺跡ガイドをしていました。一日中歩きっぱなしで、かなり日焼けしましたね。お客様は日本人なので、日本語でのガイドでした。でも、周りのカンボジア人ガイドたちが、母国語ではない日本語を一生懸命勉強し、マニュアルを覚えてお客様と接しているのを見て、「自分はなんて楽な仕事をしているのだろう……」と悩むように。
ガイドとしての仕事自体は楽しかったのですが、自分のスキル向上にもっと繋がる仕事がしたいと考え始めました。そんな時に、今のホテルで日本人スタッフを募集しているという噂を聞いて。観光業を通じたサービス業を極めるためには、ホテル業経験も絶対不可欠だと思い、未経験でしたが挑戦することに。ちょうどガイドの契約期間が終わる頃だったので、タイミングも良かったですね。
これが日本であれば、未経験の私が採用されるのは条件的に厳しいと思うのですが、面接でやる気と今までの経験をアピールし、無事採用されました。
濱田:未経験のお仕事に飛び込まれて、大変なことも多いのではないでしょうか。
鈴木:多様な国籍のメンバーとのやり取りや、文化の違いで苦労することもありますが、今の仕事内容は、実はこれまでやってきた添乗員や経理の仕事内容がとても役立っています。添乗員の時にお客様の心理を常に考えていたことは、ホテルの接客時に活かされていますし、経理で培った財務関連の知識はセールスの仕事で活かせています。
今までずっと無駄かもしれないと思いながらやってきたことが、自分のやりたいことの土台になっているので、諦めずに頑張ってきて本当に良かったです。
濱田:逆に、カンボジアで働いていて、良かったことはなんでしようか。
鈴木:このホテルでは日本人スタッフが私だけなので、お客様にとって “唯一の人”になれることが一番の魅力ですね。旅行先で何かあった時、日本人の気持ちを理解できたり、日本語を話せたりする人がいるだけで安心するものです。日本や他の先進国のホテルであれば、 日本人というだけで頼られることは少ないですが、ここであれば「困ったことがあれば鈴木さんに相談しよう」となる。
私は人に頼られるのが元々好きなので、とてもやりがいを感じますね。観光産業というのは平和産業なので、平和でなければお客様が来られません。カンボジアは内戦などを経て今に至りますが、今後も観光を楽しめるような状況が続いていってほしいなと思います。