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松本幸染さん

濱田 真里
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時代に合った形で、日本舞踊を変化させる

濱田:古典舞踊の継承者として3歳から舞台に立たれていますが、ここ数年で海外公演やアーティストとのコラボなど、枠にとらわれない様々な挑戦をされているのには、何かご自身の中で変化などがあったのでしょうか。

松本:私は日本舞踊の古典を踊っていますが、生まれた時から身近にあり、踊ると母や祖母が喜んでくれるからやっていました。でも段々と、「自分自身が楽しいと思える踊りがしたい」「自分の強みを持ちたい」と思うように。

そんな時にアーティストたちとの出会いがあり、コラボを始めました。家族に反対されるかと思ったのですが、母に相談すると「古いものに囚われすぎなくてもいいんじゃない」と言ってくれて。古き良きものを継承しつつ、時代に合った形に変化させた日本舞踊を踊ってみたいですね。

濱田:日本と海外での公演をされる中で感じる違いはありますか?

松本:海外公演の方が、観客席から「ブラボー!」と言葉をかけていただいたり、感動を大きく表現してくれたりします。以前、ニューヨーク公演に行った際、移動中の駅や公園、エンパイア・ステートビルなどで踊ってみたんです。すると、周りの人がたくさん話しかけてくれて。生まれてからずっとやってきたことで、少しずつ海外の人にも感動を与えられるようになって嬉しかったですね。

日本には日本舞踊は「昔からの踊り」というイメージがすでにありますが、海外だと芸術やアートとして捉えられることも多いんです。だから海外の方が、「日本舞踊」の枠を越えた新たなものを生み出しやすいかもしれません。

自分が受け入れてもらえる場所を探すことは、とても大事です。もしそれが日本になければ、自分が居心地の良い場所を他に見つければいいと思います。

誰も持ってないものを持っている方が、かっこいい

濱田:これまで誰もやったことがないことをするには勇気がいると思うのですが、それでもやろうと思われるのはなぜでしょうか。

松本:人の真似や同じことをするのではなく、自分だけのスタイルを持って生きたいからです。誰も持ってないものを持っている方が、かっこいいじゃないですか。だから、日本舞踊の型は残しつつ、ある程度自分がかっこいいと思えて、他の人が見てもいいと思えるような踊りを追求しているのだと思います。

私自身は、元々枠にはまって苦しんでいる人間でした。もちろん生きていく上で必要だから枠が存在すると思うのですが、もっと自分のやりたいことや可能性があるはずなのに、枠に基づいて動きすぎると目の前のことに精一杯で、それに気づけなくなるような気がします。

仕事を一生懸命することも大事ですが、自分を大切にすることはもっと大事です。枠から完全に出るのは大変なので、たまに出てみたりすることで一歩ずつ変わっていき、いつか大きな変化を生み出せるのではないでしょうか。

喜びだけでなく、辛いことや大変なこともたくさん経験したい

濱田:今後も踊り続けることで、どんな変化を起こされたいですか?

松本:若い人にもっと日本舞踊について知ってもらいたいですね。きっかけは踊りへの感動だったり、着物への興味だったり、なんでもいいと思うんです。日本舞踊では、四季を表現しながら踊ります。そういった日本ならではの文化に、ぜひ触れてみてほしいです。

また、踊ることで周りの人を明るく照らすような存在になりたいです。日本舞踊の起源は、日本神話にあると言われています。天照大神が立てこもった天岩戸を開けようと、天鈿女命が踊り、その賑やかな音を聞いた天照大神は思わず岩戸を開けてしまったというお話です。

人を心地良くさせ、心を動かすことが踊りの本来の役割だったのだから、私も踊りを通じてそんな変化を生み出したいですね。

そのためにも、喜びだけでなく、辛いことや大変なこともたくさん経験したいんです。陰と陽はセットで存在するので、どちらか片方ではなく、両方経験しないと本物の「陽の明るさ」は見えてこないと思うのです。私は時々「よく笑っていて、悩みがなさそう」と言われるのですが、笑えるのはたくさん泣いているからかもしれません。

踊りの中で様々な感情を表現するので、五感を使ったり感情を経験したりすることは、私にとって大事なこと。今後も様々なことを経験し、踊りを通じて伝えていきたいと思います。


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