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山本美香さん【TRIBUTE】

濱田 真里
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フリーランスジャーナリスト。都留文科大学卒業後、CS放送局に入社。その後独立系通信社・ジャパンプレスに所属。日本人女性記者として初めてタリバン支配下のアフガニスタンを取材。「9.11テロ」事件発生時よりアフガニスタンに留まり、カブール陥落を取材。日本テレビ社長賞受賞。イラク戦争勃発時より、唯一の日本人女性記者として空爆下のバグダッドを取材。イラク戦争報道でアジアのピュリツァー賞と呼ばれるボーン上田記念国際記者賞特別賞を受賞。2012年のシリアでの取材中、政府軍の砲撃により殺害された。

「やっている人が少ないからこそチャンス」

濱田:山本さんは日本人女性で唯一の戦争ジャーナリストだそうですね。

山本:そうですね。でも戦場や紛争地で取材をしている海外メディアの人には結構女性がいて、特にレポーターは女性が多いですね。日本でプロとして戦争ジャーナリストをしている人って、実は5人ぐらいしかいないんですよ。でも試験があるわけじゃないから、なろうと思えば誰でもなれるんだけど、プロとしてやり続けることが難しいんです。大体の場合は挫折して続かない人のほうが多い。でも、あんまりやっている人がいないんだから考えようによってはものすごくチャンスなわけでしょう?だから若い人たち、特に女性にはどんどん挑戦してほしいなと思います。

濱田:山本さんはビデオジャーナリストの草分け的存在だとか?

山本:元々私が入った会社がビデオジャーナリスト育成に初めて取り組んだ会社で、私を含めて5人のチームで活動していました。撮った映像は全て書名制で、編集も全て自分でするから責任重大。読む人からしたら誰が書こうが関係ないかもしれないけれど、「責任の所在」をはっきりさせることはとても重要です。私は基本的に原稿を書くときは書名を書くんだけど、自分の名前で載せるんだから変な記事は書けないでしょう。だから原文情報を知らせるし、噂だったら確認する。当たり前のことなんだけどね。そうやって今までやってきたから、 顔を見せずに好き放題言う人は信頼出来ない。勝手に意見を言うだけじゃなくて、ダメならどこがダメなのか、そこをどうすればいいのかまで自分の責任できちんと言わないとフェアじゃないですよね。

濱田:ちなみに山本さんはどういった経緯でフリーランスになられたんですか?

山本:最初の会社で働き出して5年くらい経った頃、総務部に移ったんです。会社としては結構重要な役割だったんだけど、その時ちょうど阪神淡路大震災が起きて、人手が足りなかったから私は現場に行きたかった。でも私は役割が違うから後ろで現場スタッフの原稿をまとめる作業をしていて、そこで強烈に「自分は現場が好きだったんだ」っていうことに気付いたんですよ。その時までは他部署も経験してから現場に戻ればいいかなって思っていたんだけど、いてもたってもいられなくて会社を辞めてフリーランスになることを決めました。収入のこととか不安はあったけど、ダメだったらまた考えればいいや、と思って飛び出しました。辞めずに会社の中で出来たこともあったと思うんですけど、でもやっぱり今やっているように自分のテーマを持って活動することは出来なかっただろうから、あの時フリーになるという決断をして本当に良かった。辞めなきゃ良かったって思ったことは一度もないですね。

濱田:山本さんはとことん現場主義なんですね。

山本:そうですね。会社では自分のやりたいことばかり出来るわけじゃないから、やりたいことの壁にぶつかって、どうするかを考える時期もあると思う。順調な時は忙しくてそんなことを考える余裕がないから、実は立ち止まった時の方が自分のやりたいことを振り返ることが出来る、良いタイミングなのかもしれません。

濱田:ポジティブで素敵です。

山本:そんなことないですよ。実は基本的に結構ネガティブ(笑)。ただ、常に自分で自分を元気づけようとしているの。パワーがどこからともなく溢れる人なんてそうそういないと思います。でも実はどこかですごく楽観視している自分がいるのも本当ですね。そうじゃないと戦場現場では眠れなくなっちゃうから(笑)。

「完璧な政府なんてない。良い政府は私達が作っていけばいい」

濱田:私は3.11の震災から情報に対する考え方が変わりました。あの時はたくさんの情報があるにも関わらず、メディアによって発信している内容が全然違って、何が本当なのか信頼出来なくなりました。

山本:私が取材に行くような場所は、独裁政府でまさに政府を信じられないような国なのね。だから確かに政府の対応も悪いと思うんだけれど、一方でメディアがきちんと問題を正していく、そういった機能が上手く働かなくなっているとも思います。暗黙の了解って政治の世界にはたくさんあるけれど、だからこそ言われた通りに信じるのではなく、自分で考えなきゃいけないんだ、ってことに私たち国民が目覚めたのは、まともなことだと思うんですよ。元々政府ってそれぐらいのもの。完璧な政府なんてないから、私たちが意見を出して政治家を判断して、良い国を作っていこうとするわけでしょう?良い政府は私達が作っていけばいい。そのためにはメディアがきちんとした情報を出すとか、権力は情報を隠すとかするからそこをメディアが追求していかなきゃいけない。

濱田:なるほど。私たちが自分で考え、疑う姿勢を持つことが大切なんですね。

山本:でも全部のニュースを疑うっていうのも違うと思うのね。そんなことをしていたら自分の思考も狭まってきて、もったいない。だから、まともなことを言っている人もいるだろうし、言っていることを変える人に対しては「おかしいんじゃないか?」って思っていればいいわけで。惑わされないようにするって大変だけど、正しいことを言っているのは誰なのか、見極めるようにすることが大切。そのためにも伝聞情報じゃなくて、第一情報を出来るだけたくさん集めるのが良いと思う。もちろん第一情報だからといってそれが全て正しいわけでもないけれど。

「夢やビジョンばかりに気をとられると、今この瞬間が疎かになりがち」

濱田:大学講師として若者と触れ合う機会も多い山本さんの目に、最近の若者はどう映りますか?

山本:最近の若い人たちは社会に貢献したいとか、周りの人たちと連携したいという意識が強い気がします。私が学生の頃は自分のことでいっぱいいっぱいだったから、すごく新鮮。実際にグループを作って積極的に活動している学生も多いし、そのフットワークの軽さには驚かされますね。その一方で、若者全体が「何かやらなきゃいけない」というプレッシャーを感じているようにも見えるんです。ぼーっと過ごすことを許されない雰囲気というか。就職活動でも「学生時代に何をやって、何を得たのか?」と結果を求められ、それに答えられなきゃ意欲のない学生だという烙印を押される。だからやりたくてやっているというよりは、安心するために、アピールするためにやっている人も結構いるんじゃないかな。でも「何の役に立つかもわからないようなこと」に夢中になれるのも学生時代の良さ。だから社会全体がもっと余裕を持って若い世代を受け入れなくては、と思いますね。

濱田:確かに何かをやらなきゃいけないとか、夢やビジョンを持たなきゃいけないというプレッシャーを感じることはありますね。

山本:夢や目標に向かって頑張る人もいるけど、みんながみんなそうじゃないでしょう。ただ生きているだけで幸せという人もいる。そういう若者にとって、今はきつい世の中ですよね。実は私自身、ビジョンとか目標をあまり意識したことがないんですよ。目の前にあることをひたすらこなしていって、その先のことはその時になったら考える。フリージャーナリストとしての活動もはじめから目標として設定していたわけではありません。目の前の仕事をクリアして、ステップを踏んでいくうちに、今の道に辿り着いたという感じ。夢やビジョンを持つのもいいけどれ、そればかりに気をとられると、今この瞬間が疎かになりがちです。だから「今を充実させる」ってすごく大事。そうすれば、自ずと自分が進みたい道に繋がっていくから。

濱田:最終的に目標とする道に繋げるためにも、今自分に出来ることをするという姿勢は大切ですね。最後に若者に向けてアドバイスをお願いします。

山本:今はフリージャーナリストとして自分のやりたい仕事をしている私も、若い頃はずっと悩んでいてなかなか行動に移せず悶々とした学生時代を過ごしていました。そんな私が学生時代を振り返って思うのは、もっと幅広く色んなことを勉強しておくべきだったということ。本を読んだり色んな人に会って刺激を受けたりしながら、自分を鍛えておけば良かったと思います。そうやって学んだことはすぐには効果が出ないかもしれないけれど 、どこかの段階で必ず役に経つ日が来ます。学生時代はあっという間に過ぎてしまうから、ぜひ色んなことをたくさん勉強して下さい。


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