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村松泰子さん

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「女性は家事育児に従事し、男性のサポートをする」という概念が普通だった時代を経て、現代ではジェンダー平等が叫ばれています。その一方で、メディア表現の中にはまだ時代錯誤なものがあるのも事実。この現状を少しでも変えるために私たちができることとは——放送界の研究者としてキャリアを積み上げ、女性学やメディア・コミュニケーション論を専門として教壇に立ってこられてきた、日本女性学習財団の村松理事長にお話を伺いました。

男女での役割分業が際立つ国、日本

――現在、公益財団法人日本女性学習財団で活動され、メディアやジェンダー論を専門とされている村松理事長ですが、学生時代からジェンダーに関する違和感をおもちだったのでしょうか

村松泰子理事長(以下、村松):私が学生だったのは60年代半ば。当時は違和感をもつことはなく、女性が仕事をするためには男性の倍以上働く必要があると思い込んでいました。また、大学の就職窓口には女性向けの求人情報が全くなかったのですが、そういうものだと諦めて、「この状況内でなんとかしよう」と思っていましたね。それが社会構造的におかしいという明確な意識はありませんでした。

――女性が働くことへのハードルが非常に高かったのですね

村松:その通りです。日本では他国と比べて女性・男性の役割をそれぞれの分野で分けがちですが、この背景にあるのは、人種や宗教など、社会の構成要因の多様性が少ないこと。これを「性別役割分業」といいます。そのため、女の子は家事育児、男の子は勉強をすることは「運命」で、結婚をしたら女性が家庭に入って専業主婦になることが、高度経済成長期の日本では当たり前とされていました。

メディアを変えるのは、消費者のリアルな声

村松:実際のところ、性別役割分業の意識は現代でも根強く残っています。たとえば、女性が働き自立することを「自分の分は自分で稼ぐ」という意味で捉えることはあれども、「夫子を養う」という意味では捉えませんよね。一方、男性が自立して稼ぐことには、「妻子を養う」という意味が含まれています。このような意識はメディアの中でも数多く見受けられます。しかしながら、この現状に少しずつ変化が生まれているのも事実。時代錯誤なジェンダー表現があると、消費者たちによってSNSで話題に上がったりしていますよね。

——確かに、去年3月に駅ビルを展開する「ルミネ」がYouTubeで公開したCM動画が、ネット上で物議をかもした現象などはインパクトがありました。(参考:【ルミネ炎上CM】広報へ制作意図を直撃 「女性の変わりたい気持ちを応援したかった」

村松:あの時はTwitterやFacebookを中心としたSNSで炎上し、様々な意見が飛び交った結果、ルミネは公式サイトで正式に謝罪のコメントを発表しました。そもそも、ジェンダー的に問題のある表現になるのは、制作者側がその表現に疑問をもっていないから。でも、女性たちは怒っているということをどんどん伝えていけば、ビジネスである以上、変わる可能性はあります。だからこそ、消費者が「良いものは良い、悪いものは悪い」と伝えていくことは非常に効果的。相手が理解してくれるまで消費者が丁寧に何度も伝えていくことが必要とされますが、若者たちがSNSの力を使いながら自分の意見を発言する姿はとても頼もしく感じます。

皆さんにも、違和感を感じるメディア表現があったら、自分の持つ手段を使ってぜひ発信して欲しいですね。今はスポンサーや放送局に電話をしなくても、ネットで発言すれば広がります。制作者に意見を直接届けることが、今までにないくらいハードルの低い時代なのですから。

自分軸で考えることが、運命を変える第一歩

——そもそも、女性は男性のサポートをする、という性別役割分業意識が変わったきっかけは何だったのでしょうか

村松:やはり教育の力が大きいと思います。教育を受けることによって「自分で考える」ことができるようになります。そして、自我をもつと「私は」という一人称で語れるようになり、その結果、自分の人生を自分軸で考えることができる。すると、生まれた環境や周りのルールなどによって運命だと思い込んでいたものを、変えられるかもと思ったり疑問をもったりするのです。

私が好きな2015年放送のNHK連続テレビ小説『あさが来た』の主人公あさの口癖は、「なんでどす?」。江戸時代を舞台にストーリーが始まりますが、いくら自立意識が強かった女性とはいえ、「なぜだろう?」と言うことは、当時ものすごく勇気がいることだったはず。こうやって疑問をもつことが重要で、女性が自分の意見を言える環境になったのは、きっと彼女のように自我をもち、疑問をもって動いた人の歴史があるからだと思います。

>>【後編に続く】メディア業界の女性の立場 日本女性学習財団 村松理事長が語る、ジェンダーにとらわれない社会とは


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