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甲斐 優理子さん

濱田 真里
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無料留学キャンペーンでたまたま足を運んだセブ島で、人生が変わった。

濱田:現在はSNS上のデータ解析を軸に、マーケティングリサーチや各種プロモーション支援事業を展開する株式会社パスチャーを経営されていますが、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

甲斐:大学4年時の2014年に女性向けアパレルEC会社を創業し、シンガポールとフィリピンで事業展開した後、2年で撤退した経験が元になっています。この時の事業内容は、日本の在庫処分に困っている商品を買い取り、それを東南アジアの人に売るというもの。

私はアパレル業界の友人が多いのですが、当時の国内アパレル市場では、今以上に短いトレンドに合わせた大量生産が増加し、売れ残った在庫問題の話をよく聞いていました。商品が当たれば大量に売れる一方で、売れなければ膨大な在庫の保管料や人件費、処分費用などがかかってしまう。大企業だと20億円近くが毎年赤字になることも。私はその在庫を有効活用できないかと考え始めました。

その時に思いついたのが、インターネットを通じて東南アジアで在庫を販売すること。国内での転売は、正規品が売れなくなったりブランドイメージが悪くなったりする懸念があるので難しかったのですが、東南アジア向けであれば売れるのではないかと思ったのです。

日本ブランドが人気で、格安スマホの普及によってインターネット人口が急増し、人口の平均年齢が23歳前後と若く、一年中夏のため商品の仕入れが夏物だけで安定していることを理由に、東南アジアで事業を立ち上げることにしました。

濱田:シンガポールとフィリピンを選ばれた理由を教えて下さい。

甲斐:シンガポールには本社機能を置き、事業はフィリピンで進めたのですが、たまたま留学で足を運んだことがきっかけでした。セブ島の語学学校がツイッター上で行った無料留学キャンペーンに当選し、2012年に1ヶ月間滞在したのです。

応募総数約3000ツイートの中から選ばれたのは2名だったので、連絡が来た時は驚きました。でも、語学学校の環境が合わずに4日間で逃亡。学校で勉強するのは自分に向いていないと思い、実地で学ぼうと決めました。同時に、セブ島に行く前に家入さんという人から「せっかく行くのだから、そこでしかできない面白いことをやってきたら」と言われたので、勉強以外でできることも探すことに。

考えた結果、セブ島で私が選んだお土産詰め合わせの配送サービスを立ち上げました。Webサイト自体は約30分で作成し、ローンチすると意外にもたくさんの注文が入り、約4時間で20万円分の注文が。

これ以上注文が入ると持ち帰れないというところでサイトを閉じましたが、それがきっかけで私がセブ島にいることが広まり、連絡をいただくようになりました。結局、商品の買い集めだけで留学4週間のうち3週間半が過ぎてしまって。人生を変えた4週間でしたね。

帰国後は、WebサービスおたくとしてSNSで発信していたこともあり、ベンチャー企業での新規事業のコンサルタントや、ベンチャーキャピタル等からオファーをいただき仕事をするように。でも、週に数時間しか睡眠時間を確保できない多忙生活で胃潰瘍と円形脱毛症になり、20代前半でそんな状況になるなんてと衝撃を受けました。

そんな時に、セブ島にある語学学校に投資をしていた知人から「セブ島の経営陣が交代するんだけど、マーケかなにかやらない?」というオファーをいただき、激務環境から一度抜け出そうと、またセブ島に行くことにしました。セブ島では自分のペースで働けて体調も一気に良くなり、円形脱毛症も治ってきて、ここで働きたいと思うようになったのです。

フィリピンでの事業撤退から、現在の会社創業のヒントを得た

濱田:2度目のセブ島滞在では、どんな展開が待っていたのでしょうか。

甲斐:フィリピン人たちに価値提供できるWeb事業をやりたいと思うようになりました。当時B to CのEコマース市場の成長率は、日本だとほぼ1桁成長なのに比べ、東南アジアでは年次37、38%という強烈な勢いでした。その内訳の35%がファッションや美容、コスメ関連市場だったので、美容大国と呼ばれるフィリピンで、女性たちに向けた事業を目指すことに。その結果、前述した事業を立ち上げましたが2年で撤退に至りました。

失敗の理由は、インターネット人口が増加しても、オンライン決済で商品を購入する文化は醸成されていなかったこと。フィリピンではクレジットカードの保有率は3%以下で、商品を購入するには実際に商品を見て手に取らないと判断できない、という考え方が一般的でした。ネットで商品購入をする文化ができるには、まだ約10~20年は必要だと思いましたね。

でも、成功した側面もありました。フィリピンではInstagramで商品を紹介し、フォロワーに対して販売場所と時間を指定すると、結構な人数が集まります。Instagramを通じての商品売買は、東南アジアで非常に発達しています。

Instagramの可能性を実感したこの時の経験が、株式会社パスチャーの構想に繋がりました。事業撤退後に帰国すると、Instagram運用のオファーをたくさんいただき、今後日本でさらにInstagramが使われていくようになるのであれば、事業を立ち上げようと思ったのです。

元々人と接するのが苦手だったので、起業も海外でやることも、全く想定外だった

濱田:元々海外で起業したいと思われていたのでしょうか。

甲斐:起業も海外でやることも、全く想定外でした。私は元々人と接するのが苦手で、小学生の時は図書館にいるようなタイプ。インターネットにはまったのも小学生の頃からで、ネット上であれば直接顔を合わせずにコミュニケーションを取れるのが気楽で好きだったんです。だから、できるだけ人と会わない仕事がいいと考えていました。

起業したのは、東南アジアで事業展開し、外部から資金調達をして雇用するには法人化が必須だったから。実は起業当時、インターンをした企業からエンジニアとして誘ってもらったのですが、急成長する東南アジア市場では1年の遅れが致命傷になると思い、お断りしました。

元々起業したいと思っていたわけではなく、人と会うことを避けたいということをベースに動いていたくらいでしたが、事業をつくることの興味がそれを上回ったのだと思います。

濱田:甲斐さんが行動をする際に大事にされている軸があれば教えて下さい。

甲斐:私が慎重派だからかもしれませんが、石橋も叩きすぎたら割れる、と思うようにしていて。どこかで渡っているうちに、渡り方が分かってくるので、叩き割る前に渡り始めたほうがいいと思います。


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