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石濱裕美子さん

濱田 真里
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「ポジティブであるということは、とても美しいこと」

濱田:結婚や子育てについてはどのように考えていらっしゃいますか?

石濱:やりがいのある仕事を見つけてそれに夢中になれば、気が付けばあっという間に35歳くらいになっちゃいますよ。そうするとね、大概の場合は男も女も、もう結婚はいいかなってなっちゃうんです。最近未婚の男女が増えているのは、やはり仕事を抱えて、子供や配偶者や配偶者の家族の世話をしていくというのが大変だ、ということで結婚を避ける人が多いからでしょう。
でも結婚する人、結婚しても仕事を続ける人はその苦労の分だけ、人より成長する機会を得ています。

結婚するということは、一人の人と誠実に向き合うことを決心することだし、子どもを産むということは、その子が頭が良かろうが、悪かろうが、障害を持っていようが育てるという覚悟を持つことですから、いやでも成長します。これらの苦労は、大変なようでも、配偶者を愛し、子供を愛し、仕事を愛すれば乗り越えられる可能性の高いものです。そして乗り越えた後には、かつてない自分がそこにいることに気付きます。
私は仕事と子育てを両立するという苦労はしませんでしたが、30歳の時には両親が死んで、兄弟もいないというハードな経験をしました。その頃の考え方は非常にネガティブで、自分の鬱な物の見方が正しく、笑って暮らしている人間は頭が悪いんだと本気で思っていました(笑)。
でもある時、この鬱状態って自分で自分を憐れんでいるだけだってことがわかり、自分を哀れんでいる人間に、自分を護りたい人間に、いかに魅力がないかに気づいた瞬間に、これではいけないと思い、そこから抜け出す契機になりました。
あの時期を抜け出して、今振り返ってみると、あの時の自分は馬鹿でしたね。自分で自分を苦しめることに全力をあげていて、どんなこともネガティブに否定していった結果、何も選べない状態に自分を追い込んでいました。しかし今になって思うと、ポジティブであるということ、希望を持つということは、自分にとっても、回りにとっても美しく望ましいこと、この真理を実感するにあの絶望の期間は必要であったと思います。どんな苦労もそれをつぶされずに乗り越えれば無駄にならないんです。
本当に強い人間っていうのは、大声をあげて自己を主張している人間ではなくて、明日世界が終わるという時にも物事に動じずに、静かに笑っているような人ですよ。

「今一瞬を真面目に生きる」

石濱:人間の命なんて実はすごく簡単に終わってしまうもの。みんな自分だけは特別、自分だけは90歳まで生きられるって思っているじゃないですか。でも私の場合、両親が早死にしていますから、遺伝子的にそんなに長生きはできないだろうって心のどこかで思っているんですよね。だから90歳まで生きるという前提ではない生き方をする。今一瞬を真面目に生きるというか。だからあまり適当なことは出来ない。「とりあえずこの場をなんとかしておこう」、なんてことは出来ないんです。

濱田:でも正しいことを正しいと言いづらい世の中になっている気がします。

石濱:日本社会でチベットを研究していると、色々と難儀なことがあります。イギリスがインドを植民地にしていた時、インド人のナショナリズムを刺激するという理由から、インドの政治史を研究することが憚られていたように、1951年以後、中国はチベットを実効支配しているため、チベットの過去の歴史をあるがままに研究する自由は、世界のかなりの地域においてありません。最近はずいぶん状況がかわりましたが、今まで日本のメディアは中国を刺激しないために、チベット問題を全く報道してきませんでした。その結果、日本人の多くはチベットの歴史を全く知りませんし、その文化についても非常に誤解が多いです。このような環境ですと、必然的に研究者の数は増えませんし、講演にお招きいただいても、50代より上の人は中国革命を夢を見た世代なので、チベットの歴史を平常心で受け止める人は少なく、感情的になる人もいますね。こういう場面において、私は常に根拠、具体的な史料を提示して、根気よく回りの人に正確に事実を伝える努力をしてきました事実に基づいているため、自分にも他人にも恥じることはありませんし、人がそれに耳を貸そうが、貸すまいが気にもなりません。

日本の社会が事なかれ主義や、予断によって、自分の研究に冷たくあったとしても、外国の人はちゃんと評価してくれますし、何より、今の日本人はダメでも、未来の日本人が自分の研究を見てくれます。
今回の震災でも見られたことですが、デマや不安に惑わされて右往左往したり怒り狂ったりしている人は混乱をもたらしただけでした。被災地の人々に直接的な利益と、観念的な希望を与えたのは、現場でちゃんと仕事をしている人、現象を正確に認識して行動・発言する才能ある人たちでした。

「自分の心の声に従って、あなたのできる範囲で、あなたができることをやっていけばいい」

濱田:私も人の顔色を窺うような人生ではなく、自分で自分の人生を切り開いていきたいです。

石濱:そのためにはまず、スキルを身に付けて自信を付けることです。人の役に立てる、あるいは自分にしかないスキルがあれば、その自信に基づいて誰に何を言われても気にならなくなります。自分の心の声に従って生きることが許される人は、才能があって、普遍的な価値観に則っていて、そして道徳的な人です。そうでない人が心に従って生きても、ただの子供のわがままに過ぎず、自分も他人も苦しめて終わりってしまいますから。


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