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山本美香さん

濱田 真里
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フリーランスジャーナリスト。都留文科大学卒業後、CS放送局に入社。その後独立系通信社・ジャパンプレスに所属。日本人女性記者として初めてタリバン支配下のアフガニスタンを取材。「9.11テロ」事件発生時よりアフガニスタンに留まり、カブール陥落を取材。日本テレビ社長賞受賞。イラク戦争勃発時より、唯一の日本人女性記者として空爆下のバグダッドを取材。イラク戦争報道でアジアのピュリツァー賞と呼ばれるボーン上田記念国際記者賞特別賞を受賞。

「駄目元でも、ちゃんと挑戦しよう」

濱田:大学卒業後テレビ関係の会社に勤務し、現在フリーランスジャーナリストとして活躍される山本さんですが、学生の頃からマスコミに興味をお持ちだったんですか?

山本:そうですね。父が新聞記者ということもあってマスコミにはずっと興味がありました。でも、それだけを目指している所謂マスコミ志望の学生というわけではなかったかな。興味のあることは他にもあって、一つに絞ることが出来なくて。これだという道を決められず、漠然とした学生生活を送っていました。

濱田:他にはどんなことに興味をお持ちだったんですか?

山本:特に興味があったのは教育。教職課程でやった教育実習がすごく楽しかったんです。一時期は本気で先生になろうと思っていました。でもその一方で、社会経験もない自分に一体何が教えられるんだろう?という疑問もあって。だからなかなかこれだ!と思える道が定まらず、この先大学を卒業したらどうなっちゃうんだろう…という不安はずっと持っていました。

濱田:山本さんにそんな時代があったとは…それでもマスコミを選択したのはなぜですか?

山本:就職活動をはじめた頃に、自分は昔からメディアの仕事にも興味があったことを思い出したんです。思い出したと言っても忘れていたというよりは諦めていたんですけどね。「マスコミは狭き門だし、きっと私には無理だ」って。でも、よくよく考えたら本気で挑戦したことなんてなかったんですよ。それに気づいた時、努力もせずに「狭き門だから」とか「地方大学出身だから」と言い訳して諦めるのは嫌だと思ったんです。だから例え駄目元でもちゃんと挑戦しようとテレビ局を受けました。もし結果が駄目だったとしても、それが本気で挑戦した結果なら納得して諦めることができますからね。あの時挑戦していなかったら今の自分はなかったと思うと、諦めずに挑戦して本当に良かったと思います。

「今の自分があるのは、会社で基礎を学んだ時代があったからこそ」

濱田:テレビ局でのお仕事はどうでしたか?

山本:仕事はすごくハードでした。新人時代は特に忙しくて残業時間が200時間に達した時には、さすがに会社に住んでいるような感覚になりましたね(笑)。でも、当時はそれが苦じゃなかったんですよ。勿論体力的に辛いというのはあったけど自分がやりたかった仕事だし、毎日が発見と学びの連続ですごく楽しかったから。今振り返るとよくもあれだけ働いたな…と思うけど、そうやって修行の時間があったのは自分にとって良かったことだと思っています。親身になって教えてくれる先輩たちにも恵まれていました。

濱田:具体的にどんな学びがあったんでしょうか?

山本:まずは自分の限界を知ることが出来たということですね。あれだけ働いて大丈夫だったんだからこれくらいの仕事は大丈夫だろう、と自分の限界を測る基準が出来たのは良かった。あとは社会人としての基礎を作ることが出来たというのもあります。責任を持って働くことや信頼を構築することの大切さは勿論、カメラの使い方や取材の仕方などの技術を学べたのは大きい。フリーになった今でもこうしてきちんと仕事が出来るのは、会社時代に仕事を通じて社会人としての基礎を作ることが出来たからだと思います。

濱田:会社での経験が今も活きているということですね。

山本:本当にそう思います。だから会社にはすごく感謝しているんです。フリーになって自分のやりたいテーマを追求するという決断をしたわけだけど、だからと言って会社に就職せずに初めからフリーで活動していれば良かったなんて一切思わないですもん。今の私があるのはあの時の経験があったからだと思っています。

濱田:就職してこそ学べることも沢山あるんですね。

山本:そうだと思いますよ。最近日本企業は駄目だと批判されたりしますけど、新人の教育制度とかそういうところは何だかんだ言ってすごくしっかり出来ていますからね。確かに従来の会社システムが、機能不全になっている部分もあるかもしれない。でも、だからと言って何でもかんでも伝統的なやり方を捨て、新しい方法を採用すればいいとも思いません。良い部分はきちんと守っていきたいですよね。良いところは残して時代に合わない部分を変えていく、という姿勢が大切だと思います。

「目の前のことをこなしていけば、自ずと自分が進みたい道に繋がる」

濱田:大学講師として若者と触れ合う機会も多い山本さんの目に、最近の若者はどう映りますか?

山本:最近の若い人たちは社会に貢献したいとか周りの人たちと連携したいという意識が強い気がします。私が学生の頃は自分のことでいっぱいいっぱいだったから、すごく新鮮。実際にグループを作って積極的に活動している学生も多いし、そのフットワークの軽さには驚かされます。その一方で、若者全体が「何かやらなきゃいけない」というプレッシャーを感じているようにも見えるんですよね。ぼーっと過ごすことを許されない雰囲気というか、「何の役に立つかもわからないようなこと」に夢中になれるのも学生時代の良さだと思います。ところが、就職活動でも「学生時代に何をやって、何を得たのか?」と結果を求められ、それに答えられなきゃ意欲のない学生だという烙印を押される。だからやりたくてやっているというよりは、安心するために、アピールするためにやっている人も結構いるんじゃないかな。そういう姿を見ていると社会全体がもっと余裕を持って若い世代を受け入れなくてはと思っています。

濱田:確かに、何かやらなきゃいけないとか、夢やビジョンを持たなきゃいけないというプレッシャーを感じることは多々あります。

山本:夢や目標に向かって頑張る人もいるけどそんな人ばかりじゃないでしょ。そういうことを意識しなくても、ただ生きているだけで幸せという人もいる。そういう若者にとっては、きつい世の中ですよね。私自身、ビジョンとか目標をあまり意識したことがないんですよ。目の前にあることをひたすらこなしていって、その先のことはその時になったら考える。フリージャーナリストとしての活動も初めから目標としていたわけではありません。目の前の仕事をクリアして、ステップを踏んでいくうちに、今の道にたどりついたという感じ。まだまだ途上ですが。
夢やビジョンを持つのもいいけど、そればかりに気をとられると今、この瞬間が疎かになりがちです。だから「今を充実させる」というのは大事なことだと思います。そうすれば自ずと自分が進みたい道に繋がっていくから。

濱田:なるほど。最終的に目標とする道に繋げるためにも今自分に出来ることをするという姿勢は大切ですね。最後に若者に向けてアドバイスをお願いします。

山本:今はフリージャーナリストとして自分のやりたい仕事をしている私も、若い頃はずっと悩んでいてなかなか行動に移せず悶々とした学生時代を過ごしていました。そんな私が学生時代を振り返って思うのは、もっと幅広く色んなことを勉強しておくべきだったということ。本を読んだり色んな人に会って刺激を受けたりしながら、自分を鍛えておけば良かったと思います。そうやって学んだことはすぐには効果を発揮しないかもしれないけど、どこかの段階で必ず役に経つ時が来ます。学生時代はあっという間に過ぎてしまいます。皆には自分を鍛えて充実した学生生活を送って欲しいですね。のんびりしたり、集中したりの緩急をつける。オンとオフが大切だと思います。


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