1960年、東京大学医学部卒業。労働省入省、アジア、アフリカ、中南米の開発途上国の人材育成に長年携わる。その後、ニューヨークで国連日本政府代表部公使として外交活動に。官僚として30年のキャリアを積んだ後、The Body Shop(Japan)の初代代表取締役社長に就任し、日本国内でのThe Body Shopブランドの展開に携わる。更に、その後、活用されて来なかった日本の女性の本格的な活用を目指し、認定NPO法人女子教育奨励会(JKSK=女性の活力を社会の活力に)を立ち上げ、現在に至るまで理事長として活躍。現在は、事が起こった時、男性に任せる傾向にあった従来の考え方、やり方から脱皮し、男性、女性が持てる能力を存分に発揮できる社会にしなければならない、むしろ今次の日本復興プロジェクトは女性が牽引していこうと「女性の活力を最大限にいかした日本復興プロジェクト~JKSK結結プロジェクト」に、志の高い多くの女性の皆さんと共に全力を注いでいる。
木全:若い方たちが、アジアのために、世界のために…と海外に目を向けようとされる姿勢は素晴らしい。でも、そのために大切なことについて、私が75年の人生を通して実感してきたこと、皆さんがこれから生きていかれる上で必要なことを少しお話いたしましょう。
まず世界が、アジアが、そして特に日本の社会が直面している問題について知らなさ過ぎる。「知る」とは、「関心を持つ」ということ。そして、関心を持ったら、「誰かが言っていました」ではなくて、「私は」と一人称で話せる、つまり、その問題に対して自分の意見をきちんと持たなくてはならないんです。
世の中で起こっている事はみんな自分の問題でもあるのです。だから自分で関心を持ち、体験して、自分で考えて、自分の意見を持たなきゃいけない。すべてのことに対してエキスパートになんてなれっこない。でも新聞やテレビに毎日出てくるような問題については、自分の意見を言えるくらいの問題意識を持っていなきゃ国際社会では、まず相手にされないのではないでしょうか。そして自分の意見を、きちんと相手に伝わる言葉で表現できなきゃ意味がないの。勿論、相手の意見を聞いたり、耳を傾けることもすごく大切であると同時に、議論に参加して、自分の意見、場合によっては日本の意見も述べられるようになってはじめて、アジアのために、世界のために、何かをしたい…となれば、相手の社会も受け入れてくれるし、本当に役に立つことができるのではないでしょうか。
木全:皆さんは、世界に日本の女性がどのように映っているかを考えたことがおありでしょうか。2つの事例をご紹介いたしましょう。1つ目は、来日したある女性ジャーナリストから「世界一魅力がないのは日本の女性よ。」と言い切られたこと。2つ目は「世界一男に仕える日本の女性」という演題で講演を依頼されたこと。前者を詳しく申し上げますと、「20歳になっても両親のもとを離れず、収入の大半は、グルメだ、ファッションだ、海外旅行だと費やし、いざ社会が直面している問題について意見交換を求めると自分の意見は持たないし、議論も出来ない。要するに頭がカラっぽなのね。自分に中身がないから、ファッションを追いかけ、ブランドで飾ってカムフラージをしている。だから、世界で最も魅力がないのは日本の女性よ。」と。後者の講演では、「国際社会では、途上国を含め、政策決定の場に参画している女性の比率が世界最低の国。」ということを指摘されました。世界一魅力のない女性なんて言われないためにも、1人の人間として、1人の日本人として、日本の社会が、アジアが、世界が直面している様々な問題に対して関心を持ち、自分の意見を持って、それをきちんと表現できるようにならなきゃいけないのではないでしょうか。
木全:国際社会の日本の女性に対する認識は低いけど、日本には教育を受けた優秀な女性が沢山います。義務教育、高校、大学、大学院、更に留学と国民の税金を湯水のように使って高等教育を受けながら、その受けた教育を活かして、生涯を通して社会にお返しするという国際社会の常識がこの国にはない。男性も女性も、大学の卒業証書を結婚のライセンスぐらいにしか思っていない。そういう考えは絶対に改めるべきです。何のために大学の教育を受けているのか、どう社会に貢献していくのか、という問いに対してしっかり答えを持ち生きていきませんか。
木全:現代の「就職活動」は、わたくしには考えられないことです。「私は30社、50社受けます!」と得意げに語る姿をみていると、どこでもいいから引っかかれば良いと思って走りまわっているのでしょうか。引っかかって得た就職口は、あなたの本当のお仕事でしょうか。就職活動というのは、「私はこういう仕事を通して、社会に貢献したいんだ」という志を明確にもって、それで勝負すれば良いのではないでしょうか。「そういう人間はいらないという会社は、私は選びません」という毅然とした態度で、逆に「もし、私を採用しなかったら会社は損をする」と面接官に思わせるような実力、考え方をしっかり身につけていることが、大切ではないでしょうか。
私もね、9人兄弟姉妹の真ん中で育ち、姉と兄がとっても優秀だった(わたくしもクラスで1番でしたが、クラスで2~3番でもちっとも気にしない女の子でした)ので、姉と兄には、「新聞を読みなさい、勉強しなさい」と言っても、私には、「お手伝をしてちょうだい」と家事、子守ばかりを期待されていました。それを嫌な顔一つ見せず「はい」といって行動をとっていましたので、先生も、近所の人々も、「みっちゃんは可愛いお嫁さん、優しいお母さんになるのよね」とずっと言われてきたんです。それがとっても嬉しかった。けれども9歳の時に、日本が戦争に負けて父がシベリアに抑留されてしまいました。明治時代に大恋愛の末に結婚し、将来は陸軍大将の妻になる…と思って生きてきた母が多くの子供を抱え、自分では何も出来ずに生活保護を受けながら生活する姿を見て、自分とは関係のない所で人生のはしごを外されたその母の姿に「あんな哀れな女にはなりたくない」と思いました。それが私の職業意識が芽生えるきっかけとなりました。どんな時代になっても、どんな社会になっても一人で生きていく力を持ちたい。一生涯仕事をしよう…とその時強く心に決めたのです。
木全:従って、大学の選定も、就職もこの時の職業意識で決めていきました。大学は当時、非常にレベルの低かった日本の公衆衛生を背負って立とうという思いで東大医学部を選びましたし、官僚は決して国民のためになっていない、しかし、隠然とした力を持っている。自問自答した結果、官僚という怪物を避けて人生を歩むのではなく、1人の力など大したことではなくとも、中に入って改革をしようと、労働省に入ること決めたんです。特に労働省に入る時は、当時お付き合いしていた官僚が大嫌いだった彼に反対され、父には「(当時の総理である)岸信介の手先になるような娘は、俺の子供ではない。労働省に行くなら親子の縁を切ってからいけ。」とまで言われました。2人の意向には相反する結果には成りましたが、私は労働省に就職しました。何故なら、この保守的な日本の社会で私たち女が一生涯仕事をしていこうと思ったら、必ず遮る壁や天井があったり、足を引っ張られたり色んなことがある。その時に何が自分を支えてくれるかというと、「貴女が自分で選んだ職場ではないか。」という事実、その一点だと思ったのです。今でもそう思っていますが。だから自分で自分の仕事は決定していったのです。就職を決めるというのは本来そういうことではないでしょうか。
木全:私は就職してからも毎日、ある意味では戦いであったと言えるのではないでしょうか。男の組織の官僚社会に大学出の女性なんて当時いませんでしたから。だから、日本の男社会が悪いと世の中を批判しても問題の解決には全くならない。世の中を変えたいと思うなら、現実の社会を知り、良い悪いは別にして、その現実をある程度認めながら、体験を通じて一人称で語れるようにならなくてはならないと思います。本で読んだ知識、人から聞いた話をどんなに巧みに語っても、それは評論でしかなく、何も訴えるものもなければ、人を感動させない。自らの体験を通して、一人称で語られる言葉に感動したら、必ず人は変わっていく。従って、あなた方も色々な経験、体験を率先して行い、相手を魅了する能力を備えた女性になって 、溢れ出る美しさで輝いていってくださいね。
湯水のように感じてはいけないんですね、
本当にそうです。
一人称で語れるようになることは、
飛躍のステップの第一歩ですね。
女性向きの言葉だけど、男性の俺にも身にしみる・・・。
「自分の言葉で自分の意見を話す」というのは非常に重要であると思います。
政治などは自分たちに関係ないと考える若年層が非常に多いとも思います。
しかし、現実には自分のやりたい仕事につける人は少ないし、やりたくない事をやってくれる人がいないと社会は回らないと思います。
人生の大先輩にこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、全体的に「エリート」に対する言葉なのではないでしょうか?
今は昔と違って、大卒=エリートではありません。また、日本はヨーロッパのように3Kの仕事を移民に頼ってもいません。
エリート層にはこの記事のような事を実現してほしいし、しなければならないと思いますが、大多数の人は自分の生活で精一杯という現実もあると思います。
情報は何でも手に入れられる今の時代,自分の体験を通して語るってすごく大切.女性の力強さを感じました.
『体験を通じた成長』に共感する。
ただ「体験」をするための行動を起こすエネルギーがなく、多くの人がはじめの一歩を踏みせていない現状がある。
一歩を踏み出すエネルギーの源泉は、昔なら未来への希望であったのかもしれない。
しかし今の若者にそれははない。
では、若者はどうすることもできないのか?
そんなことはないはずだ。
木全ミツさんの言葉にはそのヒントが隠されているように思える。
それは「怒り」である。
政治、経済、教育、医療、福祉、…社会のあらゆるものに対して自分たちが置かれている現状に対しての「怒り」だ。
彼女の言葉を聞いて、謙虚に納得して「頑張ろう」では何も変わらない。
…「世界で最も魅力がないのは日本の女性よ」
…「30社、50社も受けるような就職活動なんて考えられない」
怒るべきだ。
ヘタレと名指しされてそれでも気づかないのはどうかしてる。
怒りを、その一歩を踏み出す勇気に変えること。
それが世の中を変えていく気がする。
あらゆる出来事や経験を自分の中で咀嚼して、アウトプットすることを体現してきた、木全ミツさんの生き方は、今の私たちに求められているものそのものですね。
そういうことであれば「日本の男性」も同じようなもの、かも知れません(そう思いました)。
世の中を変えたいと思うなら、現実の社会を知り、体験を通じて一人称で語れるようにならなくてはならないと思います。 →もっともなことだと思います。 自分もただ海外を周るのではなく、
現実から「意見」「見解」を持ちながら旅を続けます。
良い記事をありがとうございます。
「自分で選択した」という事実だけが、どんな時でも・・・とても共感します。
今の日本では目的をしっかり持たないで、周りに流されている方が多いと思います。素晴らしい方ですし、素晴らしい記事です。
インタビューという他者が間に入ってもきちんと木全ミツさんの思いが伝わってきます
自分は社会に何を返せているか?と自省しました。
単に女性だけの話ではないですね。
特に「自分で選択した事実が自分を支える」という点は過去を振り返ってみてもすごく共感できました。どんなに厳し気つらい状況になっても他人に依存した選択決定をしていたのでは踏ん張って一歩を踏み出すのは難しいですもんね。
これからも自分の意志で決めた道を歩んでいきたいと思いました。